梅原淳の心*體みなぎるエッセイ/Playground Heroes

運動の専門家が子どもたちの成長をスポーツ*子育て*教育など、あらゆる視点から応援します

プッシュ・アップ

 身体能力・運動技能の上達発達に、ベンチ・プレスとプッシュ・アップのどちらが重要かと言えば、それは確実にプッシュ・アップです。

 大胸筋や広背筋の筋力をより増大させられるのはベンチ・プレスです。しかし、ただそれだけです。チーティングなどは下半身の動員を促す効果的な手法にもなりますが(チーティング=腰を上げて下半身の力を借りること)、つまりはどれだけ大きな力を出すかが、ただ1つの的なのです。

 私たちは競技成績を伸ばすために、質の高い運動技術の獲得を目指しています。「身体能力の向上」とは本来なにを意味するのかというと、身体を巧みに操ること、難易度の高い運動課題をクリアできることです。

 その事実からすれば、身体操作の難易度が高いのは断然プッシュ・アップであり、つまり競技力向上に大きく貢献するのはこちらということです。

 プッシュ・アップとは「腕立て伏せ」のことです。様々な方法の腕立て伏せがあると思います。アレンジを利かせれば、負荷の質を変えることができます。いずれにしても腕立て伏せの本質は、腕の筋力を増強することではなくて、背中や足腰のバランス力を磨くことにあります。

 実際にやってみるとわかりますが、難しいのは間違いなくベンチ・プレスよりもプッシュ・アップのほうです。運動要素が1つではなく複数重なっているからです。

 身体を床から浮かせる能力、体勢を固定する能力、それをしながら胸郭や肩甲骨を使う能力 etc。そこに反復回数と時間の負荷が加わります。

 腕立て伏せで難しいのは、腕力が非力で身体が持ち上げられないところではありません。主に下半身の体勢保持の能力が重要なのです。背骨・腰・脚を吊り上げて固定させる力が核心であり、上半身トレーニングのようでいて、実際は下半身の努力が鍵を握ります。

 このいわゆる体幹固定力とかコアの力などと言われているものが弱いと、プッシュ・アップはできません。足腰で身体を浮かせつつ、腕を曲げ伸ばしする。さらには胸郭と肩甲骨をうまく使って、ダイナミックに腕の付け根から全体を使って動作を行います。これがPRO-ATHLETEで教える基本的なプッシュ・アップです。

 身体の細部に至るまで様々なところに意識を向けるので、運動の難易度はベンチ・プレスよりもはるかに高いものになります。発達する運動要素も沢山あります。

 プッシュ・アップを舐めてはいけません。ベンチがそこそこの重量でできたとしても、これができなければまだまだ身体能力は高いと言えません。今日のチームでも、スクワットができる、デッド・リフトができる、ランジ系もうまくできる、腹筋も100回できる、でもプッシュ・アップだけはできません。全国大会に出るようなレベルでもできない。そのくらい、これはハイレベルな能力を要する課題ということです。プッシュ・アップ恐るべしです。

 今回はバスケットボールの上に手を載せたプッシュ・アップを取り入れました。コツが掴めていない選手ほど、手元がガクガクブルブル震えます。難易度さらに上がりました。プッシュ・アップは難易度が上がるほど、より下半身から体幹までの保持力が試されます。腕以外、筋力以外の高度な運動技能が必要になるのです。

 プッシュ・アップに身体の限りない可能性ありです。身体に負荷を掛ければなんでも良いのではなく、競技力向上のために真に必要なトレーニング方法を見つけてください。巷に広がっているものから本物を見つけることは、専門的な勉強をしていないと難しいかもしれませんが、それでも考えなくてはいけません。私たちは競技力を高めるための直接的なトレーニングを探っています。

 ぜひプッシュ・アップ、腕立て伏せを極めましょう。