梅原淳の心*體みなぎるエッセイ/Playground Heroes

運動の専門家が子どもたちの成長をスポーツ*子育て*教育など、あらゆる視点から応援します

最後は自分で結論を出すことになる

 ディフェンスで「ボールに寄れ」「前に出ろ」と言われてまったくいけない選手がいました。オンボールへタイトにプレッシャーを、といくら言っても、言い続けても、結局彼は前へ出ない。あるチームの監督さんからそんな話を聞き、私もビデオで確認した上で、一助なんて言いませんがきっかけくらいになればと思い、アクションを起こしてみることにしました。

 トレーニング指導で訪問した際に、ディフェンスフットワークをおこなうことになりました。そこで私はある推察を以て彼を試すことにしました。すると案の定、ディフェンスの横の足がまったく出せません。つまりサイドステップを踏めないのです。だから前へ出られない。抜かれてしまうから距離を詰められないのです。

 じゃあこれから横のステップを鍛えてゆけば良いのか解決するかと言うと、そう単純ではありません。問題の本質は違うところにあります。彼はもう3年生、そしてDF脚力の強化は、チーム課題としても私のトレーニングの中でも、ずっと以前から明確に示されており、長い月日をかけて既に取り組んできているのです。

 その中で彼は自らの苦手を承知しながら、そこを放置してきました。これは私の見解などではなく、現在の結果を見れば自ずとそういうことになってしまいます。2年以上もの間、取り組んで来たはずなのに、じつは苦手をずっと見ないようにしてきたこと、弱い部分を弱いままにしてきたこと、そこが重要な問題の本質です。

(しかし本来「苦手」という表現は正しくないと考えます。何事も最初はできないものなので「未熟」が正しい言葉でしょう。理由は様々あるでしょうけれど、その未熟を伸ばそうとしてこなかった結果が、彼の競技生活に大きく響いています)

 未熟な部分に向き合う勇気が持てない、ひょっとしたら最初は頑張っていたけれど、途中で仲間との成長の差にさじを投げたのかもしれません。仲間たちはできて自分だけができないことを認めたくない、作りたくない、だから無いものにしたい。そんな心情だったことも考えられます。

 彼だけじゃありません、人間、誰しもそうです。

 もしかしたら、ディフェンスができないところを監督に見られたら、試合に出してもらえなくなるかもしれないと、考えたのかもしれません。それが怖かったということもあり得るでしょう。でも結局、頑なに前へ出ないことがきっかけとなり、スタメンを外されてしまいました。何かを隠そう取り繕おうとすれば、どこか別のところに歪みが出るものです。

 私は彼にアクションを仕掛けました。濁さず真っ直ぐな言葉で問い掛けました。勇気を持つには、逃げてきた自分と向き合わなければなりません。できない自分とか劣る自分というものを認める苦しさ、これは避けられません。乗り越えるしかない。

 練習で彼は、いやぁ、やってましたね。前へ前へアタックしていました。スッコンスッコンに抜かれていましたけどね。でも確実に開き直ったのだけは分かりました。

 失敗してもいいんだ、格好悪くてもいいんだ、恥をかけばいいんだ。だいたい恥なんかではないし。“できる自分”を見せかけで作って演じて、誤魔化そうとしないで、ありのままの今の全力で勝負する。その勇気と素直さを持てたときから、技術の進歩が始まるのだと思いますよ。

 もし本当に彼が競技人生をさらに充実させようと望むなら、今からでも遅くありません。わずかですが時間は残されています。でも充分です。

 向き合えなければ誤魔化すだけ、逃げるだけです。逃げたらスキルアップはありません。ただひとつ、無様な自分であっても認め、それでも信じることのできる人が最後は勝つ。私はそんな気がします。

 レギュラー奪還してほしいですね。