日本のどこへレッスンにうかがっても、身体の融通が利かないビッグマンがいて、すばしこい普通の身長の選手がいます。
ビッグマンと言っても180cm前後です(女性なら170cm)。
日本の普通のチームでは、それがビッグマンとなります。
180cmならトップチームではガードです。
他競技でも、ランキング上位の多くは180cm以上で、190cm近いことも少なくありません。
なのに日本の全般的な評価で申し上げれば、周囲よりもちょっとだけ背の高い選手は、なぜかしら運動能力でビリのほうにいることが絶対的多数です。
これについて一人の仕事仲間は別の視点で、「身長のある選手は、関節間の距離が長いんだから(骨が長いんだから)運動がのろくて当然、しかたのないこと」という主旨の事を言っていました。
それはまったくの見当違いです。
身体の成長は手足だけが長くなるのではなく、身体全体が相対的に大きくなりますから、あきらかに痩せ細って筋量が見合っていない人以外は、大きいが為にそれを操れないなんてことはありません。
ただ急激に伸びると、その時点での習得している運動感覚に対して実際のボディサイズが異なっていて、うまく操れないということが起こります。
いわゆるズレというものです。
人から箱を受け渡されて、案外に重くて落としそうになったなんて経験ありませんか。その反対とか。
簡単に言うとそんなようなことが運動ズレです。
軽いと思っていた物がじつは重い、短いと思っていた物が本当はもっと長い、それで準備していた感覚が通用しない、ということです。
それが身体の中に起きていて、また一瞬ではなく持続的に続いているわけです。
日々大きくなっている身体に、運動感覚および運動技術能力がついていけないんですね。
伸び方が急勾配なほど、その不一致は広がります。
ただそれを除けば、デカいから運動が鈍いという理由はどこにもありません。
成長期というものは、最終的に200cmになっても160cmでも、みんなにあります。
日本人で200cmは例外的なので180cmで考えて、20cmの身長差があっても160cmはすばしこくて180cmがのろいとする理由はないんです。
さらに言うと、180cmで運動が鈍い、動きがのろいっていう人は、じゃあ成長期に入る前の小学生の頃、5年生くらいまでの頃にはものすごく俊敏で器用だったのでしょうか。
それが成長期を経てガラッと変わってしまったということなら話は分かります。
でもどうですか?
背が伸びたせいで運動下手になった子を、どれほど見たことがありますか。
幼い頃に運動技術を身につけスポーツも上手だった子は、大きくなってもやはり上手いですよ。
背の伸び方などで多少の変化はあります、技巧派だったのが力任せになったとかね。
だから基本的には、背が伸び手足も伸びたことが不利なのではなくて、大きな身体になる以前から運動技能は未熟であったはずです。
大きくて身体の利かない選手は、運悪く下手になったのではありません。
手足の長さは不利にもなりません。
むしろ断然に優性な親からのプレゼントです。
それが日本では台無しにしている子が多い、あまりにも多すぎます。
前にも書きましたが、これは期待値ではありません。
全般的な傾向として申し上げて、どうもデカい選手は頑張りとか意欲というものが小さいようです。
だから運動の未熟な選手が圧倒的多数です。
所属するチームの強い弱いは関係ありません。どちらも同じ。
これをどうにか変えたいと思っています。
ひとつのカギは、すでに小学生からの運動への関わりです。
スクールやクラブチームに入って、いわゆるスポーツ少年団として活動する子が中学高校の部活へと進んでいきます。
はじめのスポ少の時点で、はやくもポジションや役割を決めてしまって偏ったプレイばかり行うケースがあります。
これを大雑把に言えば、性別、年齢、身長を一切セパレートしないで、成長期において重要な基礎能力をすくすくと伸ばしてやってもらいたいんです。
小さい頃はスペックで分けない。みんな一緒にしてください。
伸び方も個人差がありますので、合格ラインを縛らず許容する、結果じゃなく伸びていることに目を向ける、これが必要です。
そうじゃないと、身長が圧倒的優位なバスケットボールにおいては、ことさらに技術が伸びません。
下手でもプレイでは活躍できてしまうからです。
自分のレベルを誤り、中学高校と進学していく中で悲惨な情況を目の当たりにすることになります。
せっかくの可能性が死んでしまっている子を、昔もいまもずっと見ています。
他競技も同じような悩みはあるでしょう。
ひとまずバスケットボールでは、デカくても器用に上手にプレイできる選手を、いや少なからず人並みにできるようになってもらいたいですね。
これからもデカを叱咤激励し、ちびを全力応援していきます。